残念系お嬢様の日常
「雲類鷲さん、あんまり無理しちゃダメだよ」
「はい?」
「具合悪いよね」
いつもふわふわとした感じで呑気な天花寺が珍しく笑顔もなくて、まっすぐな眼差しで私を捉えている。
「どうして……わかったのですか」
「顔色がよくないし、少し辛そうだよ」
隠しているつもりだった。もしかして、私って結構顔に出やすいのかな。天花寺に気づかれちゃうなんて。
「医務室行こう」
「一人で行けますわ」
「念のため医務室の前まで送るよ」
倒れそうなほどの体調不良じゃないし、大丈夫なんだけどな。頭痛薬もらえればいい。
「風邪ひいたときは誰かに頼ったり甘えたほうがいいよ」
裏表のない優しい微笑みがくすぐったくて、目を逸らした。多分原作の真莉亜は天花寺のこういうところに憧れて惹かれたんだろうな。
原作の真莉亜にはスミレも瞳も傍にいなかった。
きっと本当の意味で友達と言える存在もいなくて、決められた仲の悪い婚約者と威圧的な伯母の存在によって自由に恋をすることを許されていなかった彼女にとって天花寺のような人は眩しかったのではないかと思う。