残念系お嬢様の日常
「少し静かにね。他の人に見られないように運ぶから」
「え……」
「だって変な誤解されたら姉さんが困ることになるよ」
ああ……そういうことか。
蒼と真莉亜は本当の姉弟ではない。だからこそ必要以上に近づくと変な噂を立てられるんじゃないかって、それによって真莉亜が嫌な思いをするんじゃないかって蒼は不安なんだ。
私はそんなの大丈夫なのに。だって本当の姉弟じゃなくても、真莉亜にとって蒼が大事な弟であることには変わりない。
私を部屋まで運んでくれた蒼は少しして、温かいレモンティーを淹れて持ってきてくれた。
「これでも飲んで落ち着いて」
「ありがとう、蒼」
「……うん」
ぷかぷかと輪切りのレモンが浮かんでいるレモンティーを飲んで、ほっと一息つく。
黒酢地獄は本当辛かった。私はお酢が大嫌いだ。できればもう二度と飲みたくないし、今後運動するときは筋肉痛に気をつけよう。
蒼の紺色のカーディガンにあるものがついていることに気づき、手を伸ばす。
「どうしたの?」
薄茶色の毛だ。人の髪の毛にしては短いし、毛質が違うように思える。動物の毛だろうか。けれど、この家には動物はいない。