残念系お嬢様の日常
「俺さ」
じっと次の言葉を待つ。決められたシナリオがまた一つ変わっていく瞬間に今自分がいる。原作では絶対にこんなシーンは存在しなかった。
雨宮がなにかを決意したような表情で私を見つめる。そのたった数秒が私にはとても長く感じた。
「前世の記憶があるんだ」
私も同じだと確信を持った様子の雨宮が吐露したのは、予想通りの内容だった。
自分と同じように前世の記憶を持っている人がいたことには驚いたけれど、これは私にとっては好都合。
にっこりと微笑んでブローチに再び触れる。
さて、ここからは私のターン。
「しっかりと録音させていただきました」
「は?」
録音できるブローチを常に身につけていてよかった。ぎこちない動作で勘ぐられないかドキドキしたけれど、初めての録音はうまくいった。
きょとんとしている雨宮を眺めながら、今度は私の方から距離を縮める。このチャンスを逃すものか。
「私も雨宮様と同じように前世の記憶を持っています」
「ちょっと待って、怖い。それと録音になんの関係があるの?」
うふふふと笑うと雨宮が顔を引きつらせながら、怯えたように身を引いた。そんなに怖がらなくても悪いようにはしないのに。