残念系お嬢様の日常


浅海さんの声が聞こえたものの、彼女の伸ばした手には届かない。

周りにはなにも掴むものがなく、突然の浮遊感に心臓が大きく跳ね上がる。抵抗もできぬまま私は無様に青い世界へと落ちていく。


「ぶごっ!」

音が変わる。

耳を水に覆われ、鈍い音に支配される。肌を刺す水温が冷たく、空気が泡になって溶けていく。

淡い光が差し込む残酷な青の世界を辛うじて開いている目でぼんやりと眺める。


身長が低い私にとっては少し深めだけれど、つま先を地面につければなんとか立てるはずなのに前世で死んだ時の記憶が全身を駆け巡り、恐怖で身体が思うように動かなくなる。



「……のせ……わ!」

「……すんの!…………ないと……じゃう!……ん!」


叫んでいるのは誰だろう。浅海さん?


「……ら……にしてんだよ!」

苦しい。そろそろ限界がくる。

もう一度、水の中で死んでしまうのなんていやだ。早くなんとかしないと。てか浮いてこないんだから助けて。



あ……もう、だめ。





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