残念系お嬢様の日常
「ーーん」
誰かの声が聞こえる。
「ーー姉さん」
姉さんって誰?この声は誰なの。
でも私は知っているはず。聞き覚えのある声だ。それに不思議と落ち着く。
「姉さん!」
声が突然大きくなり、驚いて飛び起きる。
どうやら私はベッドの上で眠っていたみたいだった。
薄いレースカーテンに陽の光が差し込んでいるということは、昼間だろうか。
確か朝から私は自宅の温水プールに入っていたはず。
「あ、起きた。よかった」
覚えのある人物が私の顔を覗き込んでいた。
「魘されていたから心配した」
頭が傾けられてさらりと流れる焦げ茶色の髪。少し細められた奥二重。瞳を守っている長い睫毛。
この綺麗な顔立ちの男の子は、間違いなく弟の蒼だ。
あれ……?弟の名前は雲類鷲 蒼。
前世で聞いたことあるような気がするんだけど。
私は約十二年間、雲類鷲 真莉亜として生きてきて……雲類鷲 真莉亜?
この名前もそういえば前世の私が知っている。
「母さん達が明日は学校休ませるって騒いでるけど……明日は姉さんが楽しみにしてクッキー作りじゃなかった?」
「え……」
「確か先輩方に贈るクッキーを家庭科の授業で作るんだったよね」
学校……そうだ。私の通っている学校は私立 花ノ宮学院。
これも私は前世で聞いたことがある。
「ひっ!」
「どうしたの?」