残念系お嬢様の日常
「あ……」
不意に軽快な音が鳴り、スミレが袖口の中から携帯電話を取り出すと表情を強張らせた。
「どうしたの?」
「……なんでもないわ」
もしかしてお兄さんからの連絡だろうか。
それにしては画面を見た瞬間に怯えたように見えたし、私には無理に笑っていて様子がおかしい気がする。
やっぱりスミレは隠しごとは下手だ。
なんでもないなんて嘘だと見ていればすぐにわかる。
でも、スミレは触れてほしくなさそうで、もしも家のことなら私は下手に口は出せない。今はそっとしておいたほうがいいのかもしれないな。
「雲類鷲さん、一日早いですがおめでとうございます」
「ありがとう。浅海くん」
浅海さんに声をかけられたことで一度外してしまった視線を再びスミレに戻すと、いつもどおりの笑顔で瞳と楽しそうに会話をしていた。
少し心配だから、明後日から学校が始まるしそのときにまた元気なさそうだったら聞いてみよう。