残念系お嬢様の日常
ゆらりと影が落ちて見上げると、階段の数歩上に爽やか男の人が立っていた。
制服ではない淡いブルーのワイシャツを着ていて、クールビズだからかノーネクタイ。
第一ボタンだけが外されていて、どことなく大人の色気も漂っているように見える。
わずかに目を見開き、息をのむ。
朝から次々と鉢合わせしてしまうだなんて。
「雲類鷲さん、天花寺くんおはよう。君たちはどこにいても目立つね」
ここの学院の教師にしてはフランクな話し方で、見た目もカッコイイため女子生徒たちからは人気がある一木先生。仲良く話をしているとすぐに噂を立てられてしまう。
年齢も二十代後半くらいなので、本気で一木先生に恋してしまう女子生徒もいるくらいだ。顧問をしているテニス部も先生目当ての女子生徒が多い。
「おはようございます」
「ごきげんよう」
天花寺に続いて違和感なく挨拶ができただろうか。
にっこりと優しい笑顔を向けてくれているこの人に、私は花ノ姫としての微笑みを向ける。
「お似合いの二人だね」
「え? いえ……偶然会っただけですわ」
「あれ、そうなんだ。てっきりそういう関係なのかと思ってしまったよ。教師がそんなこと言ったら怒られてしまうかな。余計なことを言ってしまってごめんね」
なにやら誤解をされてしまっていたらしい。私と天花寺がお似合いってそんなことあるわけないでしょうが。家柄的な問題なら納得だけど。
長話はできればしたくはないので、会釈して階段を上っていく。