残念系お嬢様の日常


花会まで少し時間があるので、校舎を出て散歩をすることにした。

中等部女子の校舎を進んでいくと中等部男子の校舎が見えてきた。

そこの裏側にある枇杷の木を見つけて、思わず「すごい!」と感嘆の声が漏れる。漫画の中で見たことがある木と同じだ。


ヒロインがこの枇杷の木にこっそり登って、枇杷を食べるシーンがるんだよね〜。すごく美味しそうに食べてたから印象に残ってる。

きょろきょろと辺りを見回す。……よし、誰もいない。

周囲を警戒しつつ、枇杷の木をよじ登る。令嬢にあるまじき行為だということはわかっているけれど、どうしてもあの枇杷を食べてみたい! 一瞬登って、ささっと食べればばれないでしょ。


「ふんっ」

なんとか木に登って、ふっくらとした橙色の果実をむしりとる。丁寧に皮をめくり、まずは香りを楽しむ。

ん〜甘くていい匂い! お次は味を!


一口かじってみると、じゅわりと甘い果汁が口内に広がる。美味っ! 最高だ。これはクセになる味だ。


ふと正面に視線を向けると、目の前に校舎の窓が見えた。どうやらちょうど廊下らしく、人影が三つ近づいてくる。

え、嘘。やばい。早いとこ降りなきゃ。


「ンカァ」

「え……?」

なんでこういうときに限って、窓が開いているんだろう。そんでもってなんでカラスが鳴くんだろう。カラスの妙な鳴き声によって、三人の視線がこちらに向いてしまった。






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