残念系お嬢様の日常


「一木先生は辞めるそうよ」

「……そう」

スミレは複雑そうな表情で目を伏せる。盗撮していた一木先生がいなくなる安堵ももちろんあるだろうけれど、自分が原因で辞めるというのは後味が悪いものなのだろう。

一木先生は人気があるから、きっと生徒たちの間で辞めたことは話題になるはず。

スミレも話題に上がっている間は複雑な感情が消えないかもしれない。

それでも事件を起こしたという話題よりかは、ただ辞めたってだけの方が話題に上がってもすぐに消えていくだろう。

一木先生は人気者の先生のままで立ち去れるなんて、彼に対しては甘すぎる罰かもしれないわね。



「スミレ、そんな顔しないで。もう怯えなくて済むんだから、ね?」

瞳もスミレの心情を悟ってか、優しい口調で微笑みかける。


「ええ。本当によかったわ。ありがとう」

スミレがほんの少しだけ表情を緩めた。これでスミレの日常が戻ってくるのだ。

誰かに見張られているというストレスもなくなるはず。私の選択をどうか本人には気づかないままでいてもらいたい。






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