残念系お嬢様の日常
静寂の中、自分の足音と声が鮮明に聞こえてくる。
緊張に手に汗が滲むけれど、悟られるわけにはいかない。
私の中にある自分の記憶を手繰り寄せる。
前世の記憶が戻る前は、怯えなどとは無縁な性格だった。
けれど、思い出してしまってからは弱気になることが多くなってしまった。
今は自分の弱気な部分を全て押し込んで、強気な自分だけを引き出す。
「貴方が待っていたのは、一木先生よね」
〝一木先生〟という名前を出したことで、少し強張った表情へと変わったのを見逃さなかった。
「真莉亜様、どういうつもりですの」
「どういうつもり? それはこっちが聞きたいわ。雅様」
机に手をついて、彼女を見下すように目を細める。
これは絶好のチャンスだ。
原作とは違う展開ではあるものの、彼女の存在は浅海さんを追い詰めていく。
ここで止めるいい機会だわ。