残念系お嬢様の日常



「水谷川さんが怒り狂って間に入っていきそうだったから、拓人が止めていたんだ」

雨宮がそう説明すると、桐生は不満げに顔を顰める。


「これ俺じゃなくてもよかっただろ。こいつ叫びそうだったから口押さえたら、噛んできやがった。犬かよ」

「セクハラするからよ!」

「俺にお前に対しての下心はない」


喧嘩をしているスミレと桐生のおかげで、少し場の空気が和んだけれど、浅海さんはかたい表情のままだ。


なにかを言いたげに唇を噛み、握り締められた手。

視線が下げられ、わずかに頭が床に向かって傾いた瞬間、私は声を上げた。






「謝らないで」


弾かれたように顔を上げた浅海さんは今にも泣き出しそうなほど悲しげな顔をしている。







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