残念系お嬢様の日常
以前の真莉亜なら、そもそもダンベルなんて使わない。
ああでも、つい先ほど言われた俺は真莉亜のことをあまりよくわかっていないという話が脳裏に過る。
本当に俺は表面上しか見ていなかったんだな。
「……なによ」
思わず吹き出してしまった俺を真莉亜が不服そうに見てきた。やっぱり変わったのはお前自身だ。
俺は確かに知らないことばかりだったけれど、以前の真莉亜なら俺が笑えばギロリと睨みつけてこの場を立ち去っただろう。
「言っておくけれど、私が犯人と決定づけるにはまだ証拠が足りないわ! 無罪よ! 一番疑わしい人って案外犯人じゃないんだからね!」
なんてわけのわからない苦しい言い訳を始めるあたりが、彼女が変わった証拠だと思う。結局この後、ダンベルも本も蒼に没収されていた。
夕方になり、雲類鷲邸に迎えの車が来た。真莉亜と蒼に見送られて、久世家の車に乗り込んだ。
……あの真莉亜が見送りだなんて、本当おかしな日だ。
車の中には既に一人乗っていた。まあ、乗っていたところで不思議には思わない。日頃から久世家によく来ているし、今日も行くと連絡が入っていた。