残念系お嬢様の日常
「うん、いちごちゃんに似合いそう」
雨宮は私の髪を耳にかけると、桜の枝を髪飾りのように耳の上に引っ掛けた。
さ、さすが女たらし!
「やっぱり、よく似合う」
「あの……」
「可愛いね」
ふわりと微笑みを浮かべると雨宮は「もう戻らないと」と言って立ち上がった。私もつられて立ち上げると、再び視線が合った。
あ……。
「じっとしていてください」
「ん?」
今度は私がミルクティブラウンの髪に手を伸ばして、桜の花びらをとった。そして、それを雨宮の手に乗せる。
「桜の花びらが地面に落ちる前に掴まえることができると良いことがあるそうですわよ」
僅かに目を見開いた雨宮が少しだけ寂しげに微笑むと、「そうだといいなー」と呟いた。その理由はよくわからないけれど、桜の花びらはきちんと胸ポケットに仕舞っていた。
「それじゃ、またね」
去っていく雨宮の後ろ姿を見送ってから、ずっと握り締めていた左手を開いた。
……悲しいことにキャッチした桜の花びらは私の手汗と体温でふやけていた。