残念系お嬢様の日常
「自分のことだろ。本当にこれでいいのか」
「……俺は決まったことに従うだけだよ」
それだけ言うと雨宮はこちらへと歩いてくる。
鼓動が速まり、なにを言えばいいのか必死に言葉を探すけれど、口から出てこない。
婚約ってなにそれ。そんなの聞いていない。
仲良くなったと思っていたのは私だけ?
本当に婚約するつもりなの?
それでいいの?
————雨宮。
少しずつ距離が縮まり、私の眼の前にきたところで、彼は足を止めずに横切っていった。
その瞬間、彼が私に言った言葉の意味をなんとなく理解した。
『俺たちの関係もこれでおしまいだね』
婚約が決まりそうだから、隠れてこそこそ会ったり、電話をする関係を終わらせたかったんだ。
雨宮の中で私ってどんな存在だった?
ただの暇つぶしで手伝ってくれていたの?
……なんとも思っていなかった?
突き放すような態度が、心を抉るように痛かった。
「瞳、本当にいいの? だって瞳が好きなのは」
「スミレがいいたいことはわかるよ。けど、好きだからって必ず上手くいくものじゃないから」