残念系お嬢様の日常


「ハルト兄様はどうしていつも瞳を傷つけるの! どうして、瞳にっ……おめでとうなんて言ったのよ! 嘘つき!」

「婚約はおめでたいことだよ」

「ばかばかばか!」

「語彙力が乏しいところも可愛いけど、スミレは少し冷静になった方がいいよ」

今にも泣き出しそうなスミレを宥めるように優しい口調で話すハルトさん。

カメラを顔から離した横顔はスミレとよく似ている。


長い睫毛に縁取られた瞳がこちらへと向けられた。



「ごめんね、真莉亜ちゃん。スミレ、いつも突拍子のないこと言って迷惑かけてない?」

「突拍子のないことはよく言ってきますけど、迷惑はかけられていないです」

「そっか。それならよかったよ」

穏やかな笑顔は本心を隠しているように思える。

そういうところはあの人に似ているわね。



「……ハルトさんは私の知っている人に似ています。本音をすぐに隠してしまって、我慢してしまう」



それがいずれ自分を追い込んでしまうかもしれないのに。




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