残念系お嬢様の日常
胃痛令嬢というイメージがついてしまっているかもしれないのに、名乗ってしまってもいいものなのだろうか。けれど、ここで名乗らないのも失礼よね。
「雲類鷲真莉亜と申します」
「君が……そうか」
意味深に微笑んだ男の人に違和感を覚える。まるで私のことを知っているみたいだ。
けれど、この人とは初めて顔を合わせたはず。
雲類鷲という苗字に反応したというよりも、雲類鷲真莉亜に反応したように思える。
「心配かけてすまないね」
「いえ。お大事になさってください。あの……胃痛薬のことは秘密にしていただけますか?」
「ああ、お互いに胃痛のことは秘密にしよう」
男の人の笑った目元が誰かに似ている気がした。けれど、誰なのかわからない。
もどかしさを感じながらも思い出すことができず、男の人は薬を飲みに行くと言って、去っていった。
うっかり名前を聞き忘れてしまったけれど、また後で会えるかしら。
そんなことを考えていると、近くのテーブルに出来上がった料理が並べられていく。
来る前に飲んできた薬が効いてきたのか、すっかり胃の痛みが治まってきた。
今度はお腹が鳴りそうだ。食べ過ぎなければ、少しくらいお肉を食べてもいいわよね?
「ここでは食い意地はるなよ、真莉亜」