残念系お嬢様の日常
「瞳ちゃん、ごめん。泣かせるつもりはなかったんだ」
「ハルトさんに泣かされるのは慣れています」
「俺、そんなに酷いことしてきた?」
「自覚なしですか? 本当酷い人ですね」
瞳は泣きながら困ったように笑う。
ハルトさんは瞳を愛おしそうに見つめながら、宥めるように優しい口調で告げた。
「これで最後にするよ」
「……最後」
笑みが消えた瞳の表情は強張っていく。
「俺は水谷川の家を継がないし、事業に携わる気もない。家を出てしまえば、ただの一般人だよ。それに来年にはフランスに行く予定なんだ」
「……夢のためですよね」
「うん。たった一人の女の子ですら幸せにする自信がなかったんだ。それでも、最後にきちんと伝えにきた」
いつのまにか周囲から話し声が消え、みんなが瞳とハルトさんに注目しているのがわかった。
けれど、ハルトさんはあえてしっかりとした声で瞳に隠していた本音を伝える。