残念系お嬢様の日常
ぽたりと床に涙がこぼれ落ちていく。
瞳は意を決したように顔を上げると、涙を拭うことなく大きな声を上げた。
まるで、あえて周りに聞こえるように。
「私はずっとハルトさんが好きでした。きっとそれはこれらも変わりません」
瞳のお父さんは目を丸くして、その様子を見つめている。
きっと瞳はお父さんに婚約の意思はないこと、自分には思っている人がいるということ、そして周囲にもそれを知ってもらうことが目的だ。
周囲が祝福ムードになれば、お父さんたちも強引には婚約を進めないだろう。
「……君は本当かっこいい子だね」とつぶやいたハルトさんは、瞳の手をとって、甲にキスを落とした。
「瞳ちゃん、君を一生大事にするよ」
その一言でふたりの周りは祝福の声と拍手に包まれる。
瞳がずっと抱えていた想いと、ハルトさんの想いがようやく伝わりあって重なった。
涙を流しながら、瞳は幸せそうに微笑んでいた。
本当によかった。感動で私までうるっときてしまう。
「譲」
胃痛仲間————雨宮のお父さんの声が聞こえてきて、思わず背筋が伸びる。
呼ばれた名前は雨宮のものだ。