残念系お嬢様の日常
「お前が婚約の断りを真栄城さんとする前に終わったな」
「……まあ、結果的にはこれで一番よかったよ」
雨宮親子の会話が聞こえてきて、どういうことだと驚いていると近くにいた景人がにやりと笑った。
「譲は好きな人がいるから婚約はできないって父親に話したらしいよ。あいつが自分から父親にそんなこというなんてすげー意外」
「え……」
「で、自分から真栄城の父親に断りの話をするつもりだったんだと」
「それって……」
『待ってて』と言った理由はそういうことだったのだろうか。
自惚れてしまいそうで、間違っていたらものすごく恥ずかしいけれど、頬がどんどん熱くなっていくのを感じる。
目が合うと雨宮のお父さんが微笑んだ。
ああ、そうだ。笑った顔が雨宮とよく似ているんだ。
「先ほどはありがとう。真莉亜さん、また会えるのを楽しみにしているよ」
まるですべてを見透かすような眼差しにどきりとした。
一気に緊張が押し寄せてきて、「はい」としか答えられずにいると、雨宮のお父さんは隣にいた景人とも言葉を交わした後、瞳のお父さんのもとへ行ってしまった。
婚約の件について話をしに行ったのかもしれない。
雨宮と目が合い、心臓の鼓動が加速していく。
きちんと話をしなくちゃと焦り、最初の一言はなんて言えばいいのだろうと迷いつつ口を開こうとする。しかし、カシャという音によって遮られた。
一体なんの音だろう。