残念系お嬢様の日常
「悠にも浅海にも彼女は渡せない」
向かい合うように立つ雨宮が私のことを見つめる。
「好きだよ」
告げられた言葉はたったひとこと。
それでも私の胸を高鳴らせるのは十分すぎるくらいの言葉だった。
「もし————」
耳元で告げられた言葉に、答えるように私は雨宮の手をとる。
「えっ!」
「あ、雲類鷲さん!?」
天花寺と浅海さんの声が聞こえたけれど、私たちは手を繋いだまま会場から小走りで外に出た。
夜の学院を二人で歩いて会場から遠ざかっていく。
繋がれたままの手が視界に入ると、胸がぎゅっと収縮する。
『もし俺と同じ気持ちなら、手をとって。二人でここから逃げよう』
雨宮からの想いの答えとして、私は手をとって一緒に逃げてきた。
あのまま注目されているのは恥ずかしかったし、二人で話がしたかった。
告げられた思いは嬉しいけれど、言いたいことはたくさんある。