残念系お嬢様の日常



「……もう連絡することないとか突き放したのに」

「ごめん。あのときは、諦めないといけないって思ってたから」

「なに考えているのかわからないし、勝手すぎるのよ。なんでなんにも話してくれなかったのよ」


歩みを止めて月明かりの下、雨宮と向かい合う。

責める言葉ばかり浮かんできてしまうけれど、あれがあったから自分の想いを自覚したというのもある。


「……ごめんなさい。言いすぎたわ」

「あれは俺が悪いから。雲類鷲さんは謝らないで」

吐く息が白い。十二月ではこの格好は寒くて、上気していた頬が冷やされていく。

すると、雨宮はジャケットを脱いで私の肩にかけてくれた。



「俺は雨宮家の中で価値はないし、ティアラも贈れない。それでもいいの?」

「私こそヒロインじゃなくて、悪役令嬢なのよ。それでもいいの?」

お互いに吹き出して、声を上げて笑いあう。


少女漫画の世界と同じだけど、雨宮はヒーローじゃないし、私はヒロインじゃない。

それでも、私たちにとってはいつのまにかお互いが必要になっていた。




< 651 / 653 >

この作品をシェア

pagetop