残念系お嬢様の日常
「……もう連絡することないとか突き放したのに」
「ごめん。あのときは、諦めないといけないって思ってたから」
「なに考えているのかわからないし、勝手すぎるのよ。なんでなんにも話してくれなかったのよ」
歩みを止めて月明かりの下、雨宮と向かい合う。
責める言葉ばかり浮かんできてしまうけれど、あれがあったから自分の想いを自覚したというのもある。
「……ごめんなさい。言いすぎたわ」
「あれは俺が悪いから。雲類鷲さんは謝らないで」
吐く息が白い。十二月ではこの格好は寒くて、上気していた頬が冷やされていく。
すると、雨宮はジャケットを脱いで私の肩にかけてくれた。
「俺は雨宮家の中で価値はないし、ティアラも贈れない。それでもいいの?」
「私こそヒロインじゃなくて、悪役令嬢なのよ。それでもいいの?」
お互いに吹き出して、声を上げて笑いあう。
少女漫画の世界と同じだけど、雨宮はヒーローじゃないし、私はヒロインじゃない。
それでも、私たちにとってはいつのまにかお互いが必要になっていた。