残念系お嬢様の日常
「あの、雲類鷲さんにスープかけてしまったのは、わ……僕です! すみませんでした!」
謝罪する浅海さんを横目でちらりと見ると、蒼はため息を吐いて私の腕を掴んだ。
「僕じゃなくて姉さんに謝ってくれたならもういいよ。姉さんもおっちょこちょいなとこあるし」
最後の方がよく聞こえなかった。
「雲類鷲さん、本当にすみませんでした」
「怪我はないもの。ですから、気にしなくて大丈夫よ。さ、蒼行きましょう」
これ以上ここにいたら、余計な突っ込みを雨宮あたりにされそうだし、ラッキースケベ事件を知られたら面倒くさそうなので、着替えた制服を持って強引に蒼の腕を引きながら医務室から出た。
とりあえず、ヒロインと天花寺の恋はここからスタートだ。
二人で廊下を歩いていると、蒼がいつもよりも声のトーンを落として呟いた。
「あんまり心配かけないで」
「ごめんなさい」
私の半歩先にいる蒼の焦げ茶色の髪が歩くたびにさらりと流れる。相変わらず綺麗な髪だ。
「焦るから」
少し不器用だけど、優しくて可愛くて大事な弟。
それが真莉亜である私から見た彼だ。原作の真莉亜が蒼をどう思っていたのかはわからないけれど、家族として良いよ関係を築いていけたらいいな。
なるべく蒼に心配かけないようにお姉ちゃん頑張るね。