残念系お嬢様の日常
「さっきちらっと聞こえたけど、昨日の戸締りのときにはなかったんだよね?」
「ええ、そのようですが……」
天花寺の目が一瞬細められて鋭くなった気がしたけれど、それ以上は彼は口を開かなかった。
消し終わり、黒板消しを置くとその横にあるチョークに目がとまった。
白、ピンク、黄色……その中の真新しい白のチョークの端っこが少し欠けていた。犯人はこれを使用したのだろう。……ああ、そういうこと。思い出した。
「あのっ、すみません。ありがとうございます」
こちらに駆け寄ってきた浅海さんは申し訳なさそうに眉を下げている。彼女が謝ることではないのに。
「信じられないわ。真莉亜様と天花寺様にあのようなことをさせるなんて」
「実は構ってもらいたくて自作自演というのもありえるわよね」
「育ちが悪い方ならその可能性もあるわね」
こそこそと話しているつもりだろうけど、丸聞こえなんですけど。
私が苛立っていることに気づいたのか、浅海さんは小声で「大丈夫ですから」と困ったように微笑んだ。
「全然よくない」