残念系お嬢様の日常
私が見ていることに気づいたスミレが何故か真顔で頷いてから教室へ入ってきた。その後に続いて瞳も入ってくる。
二人が教室に来るなんて珍しいけれど、第二茶道室へなかなか来ないから探しに来たのかもしれない。
振り返った明石さんは青白い顔をしてたじろぎ、口元を手で覆った。手が小刻みに震えていて、更に涙が溢れ出ている。
この状況で『花ノ姫』のスミレと瞳までやってきたら自分はどうなってしまうのだと怯えるのは当然だ。
スミレは微笑みを浮かべて、薄紫のハンカチを明石さんに差しだす。
「涙をお拭きになって」
「ス、スミレ様」
「相手も鬼ではないわ。誠意を持って謝罪をすれば、許してくれますわ」
あれ? スミレ達って浅海さんへの落書きのこと知っていたのかな。
それにどうして明石さんが犯人ってわかっているんだろう。もしかして、天花寺に聞いたとか? いやでも、スミレが男子と喋るかな。
「『もう泣かないで』」
スミレはポケットから取り出したテディベアのキーホルダーを両手で持つと、小首を傾げた。