ひまわり男子とシンデレラ
プロローグ
真っ白な壁に囲まれた部屋は医療機器の音が鳴り続けていた。
そしてこの空間に広まる薬品と血の臭いに吐き気がしたのを覚えている。
私が好きな人はここにいた。
何人もの医師が慌ただしく動き回り、一本。また一本と彼の腕に注射を打たれ、それと同時に繰り返される輸血により小さな体の半分はすでに他人の血が流れている。
少しでも彼の傍に行きたい私を母は許してはくれなかった。
今でもその時の母の手を覚えている。
私をつなぎ留める手は大きくて力強いのに、その手はひどく震えていた。
何度も何度も母の手を振りほどこうと足掻いたが、子どもの私では逃げられることはできなかった。
こぼれ出る涙。泣き叫び続け、乾いた口腔からは鉄の味。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。
五感全てが大切な人の“死”を連想させる。
「・・・れいちゃん、嫌だよ・・・。待ってよ・・・死なないで・・・いや、いや。いやだよ・・・いやぁぁぁぁぁ!!」
うるさいほどの機械音や足音。医師たちの話し声が段々と小さくなって消えていく。
それは彼の死を私に告げているようだった。
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