姉の婚約者
姉を送り出した私は家で掃除をする。このくらいはしないと流石に家に居場所がなくなってきた。勤めていた会社がなくなって三か月、そろそろ失業保険も切れる。
「まさか、この年で二回も転職を経験するとはね。」
一か所目は普通にクビだったけどね。そんな独り言もむなしい。ほんの三か月前までは都市で一人暮らしの会社員だったのに。それが今では実家でこうして掃除、洗濯などで一日をつぶしている。父さんは皆働いているから家事をしてくれてありがたいとは言うもののこのまま居てほしいだなんて思ってはいないはずだ。
仕事もせずだらだら過ごすのは悪くないけど、家族的には悪いだろうし。でもハロワ行きたくないなあ。
……昼飯でも作るか。
ちょうど父さんも帰ってくる頃合いだし。私は何となく玄関小脇にある父さんの手芸教室の方を見た。
そこで父さんは手芸教室を運営している。と言っても、父さんの趣味みたいなもんで、暇な主婦か子供くらいしか来ない。しかし、それでも収入源は収入源。
無職の私はここの手伝いをすることでなんとか存在意義を保っている。
うちは、母が大黒柱として働いており、父は長らく主夫、もしくは簡単なパートで家庭を守ってきた。細かい作業が好きらしく、その中でも手芸は好んでやっていた。私も小さい頃はワンピースなんかを作ってもらった覚えがある。
そんな父が教室を自宅で開き出したのは、私が高校に上がる年だった。
PTAもこなした父だったが主夫で肩身の狭い思いをした事はあったろう。そんな父がまさか吸血鬼のとこに嫁に行くと言い出したらどう思うのだろう。
今日も父は地域の公民館り手毬教室(週1回 月謝4000円 材料費込み)の先生で朝から出ていた。
10時からのクラスが終わってそろそろ帰ってくるのではないかな?
よし!今日はチャーハンを作ってやろう!
そして、話すか、姉が吸血鬼と結婚しようとしてるって。嫌だな。こんな文言を人生でいうと思わなかった。
「おかえり!今日の昼飯は焼きそばだよ!」
父が刺繍糸のダンボールを抱えながら入ってきた。
「あれ?ラインでチャーハンって言ってなかったっけ?」
「あぁ、なんかチャーハン作ってたらいつの間にか焼きそばになった」
「…なんで?」
焼きそばの中の炒り卵を箸で突きながら父さんが言った。
「うん、なんかお姉ちゃん結婚するらしいよね