姉の婚約者
暗号とヨーグルト
あー。んん?」

 見慣れた天井。いつもの我が家。布団だって私の部屋になっている仏間の布団だし、服もいつの間にか寝るときのジャージだ。
……夢?
 いやにリアルな夢だった。姉さんの彼氏の吸血鬼のねぐらに行くなんて。

「夢でよかった」

とりあえず私は死んでない。
 仏壇に置いてある時計を見る。11:00か。父さんは教室にいる時間だな。体が気持ち悪い。昨日、シャワー浴びずに寝たのかな?帰ってきたときの記憶はどうしても思い出せない。釈然としないまま着替えを持ってリビングに行くと父さんがいる。

「あ、おはよう」

「おはようじゃないよ。こんな時間まで寝てて。みっともないから早く着替えちゃって」

「返す言葉もございません。風呂入ってくる」

 父が思い出したように言った。

「あ、そうそう。昨日ゆりちゃんを送ってくれた人、お姉ちゃんの彼氏の弟さんだってね。いい男じゃないか。若いけどしっかりしてて、家族思いみたいだしさ。ちゃんとお礼言っときなさい?」

心当たりがある人は一人だけ。背中に冷や汗が流れる。

「……私を送ってくれた?」

「昨日コンビニで偶然会って、話してたらゆりちゃんが体調崩したって聞いたけど?弟さんが寝てるゆりちゃんを背負って連れてきてくれたんだよ。覚えてない?」

「そう」

 昨日の事は認めたくないけど事実だった。化け物はいた。
ひとまず父さんにははっきりさせておかなくちゃいけないことがある。

「いい男じゃないよ。ちっとも」

 人間ですらないんだから。






 「そういえばゆりちゃん、弟さんからメモ預かってるよ」

 そういって片目をつぶってみせる。おっさんにウィンクされてもね。そう言う関係じゃないし。私はメモを開いてみるとそこには汚い字で

「えーと、これ?何?」

読めない……
数字が6個書いてあるだけの紙。なぜか、18の上には2つ点が付いている。

37 18" 27 32 20 19

なんだ?これは?
私は頭を振りながら、父さんを見つめるが、父さんはがっかりした顔で私を見た。

「やっぱり読めないんだ…。私も貰ったときにすぐ見たんだけど、わけがわからなくてね…、渡せばわかるって言ってたんだがねえ」

他人あてのメモを渡された瞬間に脊髄反射で見るのもどうかと思うけどね

「いや、読めないけど。昨日初対面でそんな信頼関係もないし」

「だよねえ」

父が納得する。

「とりあえず、捨てようか」

 私がごみ箱に入れようとすると父さんは慌てて止めてきた。

「取っときなよ。もしかしたら最初で最後の恋文かもしれないしさ。ゆりちゃんにも春が来たかもしれない」

父さん?本気で?

「これ、犯行予告のほうが近くない?」

「じゃあ、なおさら捨てたらいけない。とりあえず、冷蔵庫貼っとけば?」

仕方ない……
また、松村邦洋がパイプレンチを持ってにっこり笑っている水道屋のマグネットに預けておこう。パチンとメモを留めた。

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