姉の婚約者
あ、帰ってきた。なんか眠そうだな。今、起きたばっかりみたいな顔をしてさっきまでルディさんがいた席に座る。おいおい、お前の席、そっちじゃねえよ。

「さて、血を飲むところが見たいんだって?」
 
 伊沢さんは髪をかきあげながら言う。あれ?

「まあ。吸血鬼ってのはつまりそういう事でしょう?」

 伊沢さんはじろじろ私を値踏みするように見る。

「なかなか賢いな。見してやるよ、店変えるぞ。」

 そう言うと、伊沢さんは椅子から立ち上がった。ほんとうにさっきと同一人物かな?つられたのか姉も立ち上がる。

「え?」

行くの?帰ろうよ?

「さすがに姉も明日仕事なんで……帰ります。」

 私はそう言ったんだが、うちのクソ姉が

「いいよ、行こう!」

 と言い出した。お前!正気かよ!
こいつ!血の飲むところを見せてやるって言ってんだぞ!

「帰るよ!姉さん!」

 私は姉の腕を強く引っ張った。この人は正気じゃない!おかしい!しかし、姉は私を振り払う。

「嫌だ。」

「なんで?この異常性がわからないわけじゃないでしょ!?」

「今度こそ、私は今度こそ結婚するの!」

「な!?」

「家族がいつも失望してるのは知ってるわ!やっぱり今度もダメだったとか思われたくない!」

 何を無茶苦茶なことを!ふと母さんがさっき言っていたことを思い出した。”半端な男のもとに嫁に行かせる気はないわ!”
 いやいや、振り切れてればいいってもんでもないだろう!

「あー!!わかったよ!だけど、すぐ帰るからな!」

 私はとうとう観念してこう叫んだのだった。

「本当に行くのか?」

 白々しく伊沢さんが尋ねる。

「行くわ」

「こう言ってるんだから仕方ないでしょ。案内頼みますよ。」

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