【短編】記憶の香り
 ジュンが電話をする為に、店の外に出ている間に会計を済ませた。

 ジュンに会えて、元気もつけてあげられたし、帰る準備をしていた。

 もう私がここに来ることは無いだろう。

 だって、私がキューピッド役で仲良くなった二人なんて見ていられないから……。

「それでいいのかい?」

「え!?」

 お釣りを渡す時にマスターが言った言葉が完全には聞き取れなかった。

 でも、確かにそれでいいのかい?
って聞かれたと思う。

 私が聞き返したと同時にジュンが戻ってきた。

 もう一度マスターの方を向いても俯いてグラスを黙々と洗っている。

 私はジュンに見送られ、店を出た。

 外は既に太陽が昇り始めていた。

 10月の朝の風に身を震わせながら、ゆっくりと歩き出した。

 ゆっくりと、ゆっくりと……。

 泣いちゃダメだ。そう自分に言い聞かせながら歩いた。
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