【短編】記憶の香り
 夜も更け、先程よりも人数を増した常連客で賑わう店内。

 店内でも、一際照明のあたらないカウンターの端で、俺は話し始めていた。

 ユリとはこの店で知り合ったことから、あの別れのことまで、全て。

 俺は彼女に話しながら思い出していた。

 ユリとの出会いはちょうど一年前だった。

 金曜日の夜、いつものように客のリクエストで流れる、ロックやレゲエに耳を傾けながら、常連客と飲んでいた。

 そこにユリが入ってきた。

 ユリが店のドアを開けて入ってきた時、俺を含めた皆が釘付けになった。

 今どきの女性には珍しいロングの黒髪は、遠目からでもしっとりと潤いがありツヤが見てとれた。

 目鼻立ちがくっきりした端整な顔立ち。

 潤いを帯びた唇と腰のくびれ。

 黒髪とは対照的に、陽の光を浴びた雪のように白く輝くような肌が絶妙なコントラストを作っていた。

 まさに時が止まるとはこの事を指す言葉だと皆が理解しただろう。


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