雨が降る 黄昏時と夜のこと
記憶を手繰り寄せても、当時の私は顔に表情をのせることに困難していたと思う。毎日学校に向かうことだけで精一杯で、他のことには神経を使えなかった。
だから、言ってしまったのだ。
「小沼くんのせいで私いじめられてる」
無くした、或いは隠されてしまったかもしれない私の傘を探して持ってきてくれた小沼くんに。
なんのことかわかっていない小沼くんに、私は全部ぶち撒けて詰った。
「馬っ鹿じゃねえの!? ……じゃあもういいよ。芹沢の望むとおりにしてあげるよ。明日からは話しかけない」
「……」
「俺……芹沢と喋るの、楽しかったんだけどな……」
声色は私をとても蔑んでいて。
私は怖くなって小沼くんを途中から見れなくなり、逃げるように窓ガラスへと視線を移した。
外の暗さは増していて、窓ガラスには室内の様子が細かく映っていた。
そこには、声色とは違う表情の、泣きだしてしまいそうな小沼くんがいた。
とても傷つけたのだと。もう後悔しても遅かった。