春雷
高村先生の声は穏やかで、心地よく、私の緊張をほぐした。

思えば彼も緊張していただろう。
背を、シートにもたれずに座っていたのに、
高速に乗った頃には、ゆったりと体をシートに預けて座っていた。

ちらちらと彼の様子を伺う。

細い。
とても華奢な骨作りだ。
手首や、首も全て細い。
彼の足を包んでいるパンツもとても細く、
昔テレビで見たルパン3世を思い出した。

一体こんな細くて長いパンツ、どこで売ってるんだろうか。

「先生の娘さんは、おいくつですか?」

「あ、はい、今年高校生になりました」

長い足につい、見とれてしまったけれど、
運転に集中することにした。

集中
集中‥

「そんなに大きな娘さんがいらっしゃるんですか。娘さんと同じ趣味があって、いいですね」

「そうですね。娘が色々教えてくれまして‥」

雨は、まだ止まない。ざあざあと車に叩きつけている。



「高村先生、授業、どうですか?慣れない雑務も色々あるでしょう?」

「そうですね‥まだまだ慣れないことが多いです。学生の顔もまだまだ覚えれないし、事務関係の事も色々滞っています。大学の先生は、授業だけではないんですねぇ」

「ええ、本当に。私は講師ですから授業も少ないですけど、高村先生は准教授ですから、授業も多いでしょう?」

「柴田先生は御昇進のご意向はないんですか?」
「はい。辞退しています。義理母の体調があまり良くないので‥」

「そうでしたか‥」

夫の義理母は
去年胃がんで胃を三分の一切除した。
私と夫の再婚を心から喜んでくれた優しい人である。
夫は病院で、前妻を亡くしたので、それ以来病に伏せている人が苦手らしく、前回入院した母に、近づこうともしなかった。
あまりにも冷たいと娘からなじられている。

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