春雷
※※※※※※※

7月中旬

義理の母が
亡くなった。

長い入院からようやく退院への兆しが見えた時、肺炎にかかってしまい、
そのまま亡くなってしまった。


夫と、由乃の二人は、これで親族を三人見送ることになる。
由乃のおじいちゃん、おばあちゃん、そして、
五年前に、お母さんを亡くした。






夜まで葬儀会社の方と打ち合わせ、
それも終わると、夫は由乃を連れて、
自宅に一度戻った。

私は深夜に、
無言の義理母と、二人になった。


小さな祭壇にはお線香が
ゆらり、ゆらりと細い煙をたてている。

(お母さん‥本当にお疲れ様でした‥)

そろりと義理母の側から離れて
、キッチンへ歩いた。
姑が使い込んだキッチン。
美味しいものをたくさん作ってくれた。

(悪いけど、ママ、俺、由乃連れて、とりあえず帰るわ)

ふと、
さっきの夫の会話が頭をよぎった。

(俺、ダメなんだ。死人って。一緒にいたら、起き上がりそうで怖いし。ママ、頼むわ)



「‥親の遺体まで怖いって‥おっさんがいうなよ‥‥」

キッチンには
夫が置いて行ったコーラのペットボトルが、
洗わずに流しに転がっていた。

無性に腹が立った。


ねえ、パパ

本当は、
明日は、
レッドイーグルのファンイベントだったんだよ



私も由乃も全滅で、
高村先生のエントリーが、一日だけ当たって、
三人で、
すごく楽しみにしていたんだよ‥

わかってる。
こんな事天秤にかけちゃいけないって。


ただ、
ただね、
私の都合を聞かずに、自分の手足のように扱うとこ、今日はしてほしくなかった。




悔しくて
義理母が気の毒で、
やっと

とてつもない悲しみが涙になって、目からあふれた。






義理母の通夜を終え、
数少ない年配の親族達が、通夜振る舞いに残ってくれた。
遠方の方ばかりで、私は正直、会ったこともなく、なんとなく微妙な空気が流れた。

夫は周りを気遣うこともなく
ただ、夕飯を食べているようなものだった。



(ああ‥空気が重い。
由乃ちゃんどこにいるんだろう‥)

やさぐれた気持ちで
会食の場を抜け出し、
祭壇の方へ線香を確認しにいくことにした。


(あ‥)

祭壇で
お焼香をあげている背の高い男性の背中が見えた。

しまった。ご挨拶もしてない。
いつからいらっしゃったん‥だ、って、

(えっ!!)


まさか

いや、そんな、まさか


「高村さん‥っ??」


もう、背中だってわかってしまうのだ。

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