春雷

「福祉という言葉と、随分イメージがちがいますね‥」

「いえ、元は福祉という言葉も、『幸福』という意味合いがあります。ですが、今はサービス的なイメージの方が強いかもしれませんね」

「そうだったんですか‥知りませんでした」

「きっとお母様も、気づいておられましたよ。
柴田先生が、そういう気持ちでお母様をケアしていた事を」

そうだろうか‥?

「出来ないことが増えていく中で、柴田先生の存在はとても心強かったとおもいますよ」



「あの、実は、私、夫の後妻なんです」

「あ、そうなんですか?知りませんでした」

「前の奥さんは、病気で亡くなったそうで、娘は、夫の子供なんです」

「‥そうでしたか‥」

「ですから、私、義理母との付き合いは、三年くらいしかなくて‥」

「はい」

「なんか‥それでもいつも暖かい言葉かけてくれて‥昔からずっと家族だったような錯覚をさせてくれる人で、私もつい甘えちゃってて‥だから
母も、頼りなかったんじゃないかなって‥」

不安、戸惑い、焦りの中で、義理母と、向き合ってきた事を思い出した。

「いいや。そんなことはありませんよ。
自分がいなくなったら、残った家族はどうなるんだろうと、きっとお母様にも考える事があったと思います。
そんな時、きっと、大切に思っているお孫さんと、良好な関係を築いているあなたを、頼りにしていたはずです」

「そうでしょうか‥」


「つまり、何も頑張らなくて良かったんだ。
あなたは、あなたのままで、ただいるだけで、
きっとお母様は、幸せだったと思います」


高村先生の瞳がとても優しくて、
涙が、勝手に溢れだした。
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