春雷
頑張らなくても良かった。
そんな言葉を
誰かにかけてもらえるとは思わなかった。
「柴田先生、大丈夫ですか?僕慌てて来たからハンカチ持ってなくて‥」
高村先生は
慌てて胸元を探っていた。
「大丈夫です‥大丈夫‥」
救われた。
もっとできることがあったんじゃないかと
ずっと後悔していたから。
まさか、
出会って間もない人に救われるなんて
思ってもみなかった。
すごい人だ。
何もかなわない。
「ありがとうございます‥」
彼は、優しく笑った。
あなたに会えて良かった。
そう思う。
あなたがそう言ってくれるなら、
明日からまた頑張ろう。
そして、家族を大事にしよう。
私のモヤモヤには蓋をして、
義理母の残してくれた家族を。
それがきっと、幸せなんだ。
それ、が‥?
幸せ?
もう戻らなきゃいけない。
袂のハンカチを取り出して、目の端の涙を拭った。
「高村先生、今日はレッドイーグルのイベント行けなくてごめんなさい。来てくれてありがとうございました。‥また、イベントがあればいいですね」
「あ、それならもう発表してましたよ。来年二月から全国ツアーが始まるみたいですよ」
「えっ!!ほんとですか?!」
「はい。今日のイベントで発表があったみたいです。SNSで話題になってます。行きましょう!一緒に!」
「!はいっ!」
私は生きている。
哀しみと喜びを繰り返して
前に進むしかないのだ。
家族と、一緒に‥‥。
静かに。
ただ、静かに。