春雷
僕は、少し眠っている彼女に目を向けた。
睫毛が震えている。
震えながら眠っているのだ。
(柴田さん‥怖かっただろうに‥)
顔色も血の気を失い、手の先も真っ白で、酷く
痛々しい。
思わず、他人の妻である彼女の手を握った。
彼女の、包帯が巻かれた額が、少し動く。
あまりに悲しくて、鼻の奥が、ツン、とした。
そしてまた平常心を保てそうにないほどの怒りが込み上げ、僕の心を支配する。
これほどの怒りはこれまで味わったことがない。
怒りで体がおかしくなりそうだ。
彼女には、
先程まで治療が施され、
両腕と額に白い包帯が施術されている。
右目のあたりには痣がある。
(どうか、残りませんように‥。)
ハア‥。
病院に搬送され、警察の事情聴取も終わったのに、彼女の家族はまだ来ない。
彼女からすれば、由々しき事態だろう。
僕は大歓迎だけど。
「ご主人が来ないなら、僕の家に連れて帰ろうかな‥」
本気でそうしてやりたい。