春雷
「お初目にかかります。今年から国際学部で勤めさせていただきます、高村 紺です。ご指導よろしくお願い致します」

挨拶で立ち上がった彼の身長、
185はあるだろうか。
隣に座っていた50代の先生が驚いて見上げていた。
会議室に入ってきた時から異質な空気を漂わせていたが、場違いここに極まれり。

学生かと思ってしまうほどの艶のある頰
さらりと斜めに流した髪は、小さな頭に見事にまとまっている。
学生とかろうじて違うのは
そこはかとなく漂う品だ。
所作がいちいち美しい。


本当に美しい人だった。

「あれじゃあ、学生が色めきたっちゃうなあー、柴田先生も、ああいうのタイプ?」

会議で隣に座っている、同学部の
村上先生が小声で話しかけてきた。

「そうですね‥。本当に、学生達からは人気がありそうですね。声もよく通るし、授業も聞き取りやすいんじゃないですかね」

「で、柴田先生は、ああいうのタイプなの?」

「いや、タイプとか、そういう風に男性を、私はもう見ませんよ。どう見ても高村先生は私より若そうだし‥」

「何言ってんですかぁ、柴田先生も、ボクから見たらまだまだ若いよぉー、中学生の子供いるなんて、見えないよぉ」

そう言って、村上先生はにじり寄ってきた。

「私、子持ちですし、もう37ですし、タイプとか、そういうのはもう、ないです」

やんわりと村上先生から距離を取り、
会議に集中するフリをした。


これが、彼、高村 紺との出会いだった。
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