春雷
四月も半ばに入ったその日は、
朝からずっと曇り空だった。
学部の事務所に提出物をだした足で、そのまま帰宅しようとしていたら、
ポツリと、雨が頰に落ちた。
雨だ
雨だと、私と同じように帰宅しようとしている学生たちが広場でざわついている。
私も渡り廊下で、雨を避けれる場所に戻った。
そこから見える、広場の奥の
桜並木に目がいった。
新入生を歓迎するように満開に咲いた桜は、どうやらこの雨で散ってしまいそうだ。
そうしている間にも、
霧のような細かい雨が、本格的に降り出してきた。
えーと‥
洗濯物、外に干してないよね。
由乃ちゃんと夫には、傘持たせたし。
研究室の窓は閉めたし
て、
私、傘持ってきてないし‥。
家族に傘持たせて、自分は持ってきていないとか‥
「馬鹿だわあー‥ないわー‥」
細かな雨が、風に吹かれてさあさあとなっている。
しかも
ここから教員ガレージまで
「歩けってか‥」
遠い。
遠すぎる。
仕方ない、行こうかと、カバンを春コートの
胸の中に抱きしめたその時、
背後から
ふわりと私の頭上に黒い傘が掲げられた。