春雷
(まさか、ね)
そんな訳がない。
そんな訳があるはずない。
自分に言い訳をしつつ、足が動かない。
やめろ、帰ろうと頭が信号を出しているのに
体がこわばる。目が離せない。
そのシルエットは間違えるはずがなかった。
その時でさえ、抜群のスタイルを誇っていた。
(どうして‥産婦人科に?)
心臓が早い鼓動を打ち始める。
不自然に通路を塞いで立ち尽くす私に
やがて、彼も気づいた。
そして、私と同じような表情で
私を見ていた。
隣に一人の女性を連れてーーー
「柴田さん‥」
彼は私の名前を小さく、呼んだ。