春雷
間違いなく、
私の知っている高村紺だった。
頭を鈍器で殴られたような衝撃だ。
他の場所で、出会ったなら挨拶もできた。
産婦人科から女性と出てくるところで出会うなんて、恐ろしく間が悪い。
何か言わなければならないのに言葉が出なかった。
私と、彼の不思議な間に、
彼の隣にいた小柄な化粧気のない女性がきょとんとしていた。素朴な優しい顔の人だった。
白いタートルネックのセーターを着ている。
お腹が膨らんでいる感じはなかったけれども、
それでも産婦人科から出てくるには
それかしらの理由があるのは間違いなかった。
(何か、言わなきゃ‥)
それはわかっているのに
ぐちゃぐちゃになった
頭を整理したくて、
私は何も言えず、その場を去った‥。