春雷

恋なんて、とっくに忘れていた。

相手の事を考えて、
相手の一喜一憂で心が乱され、
夕食さえも作れなくなる。
そんな自分がまだいたことに気づいてしまった。

もう38才の自分は、
伴侶もいるし、娘もいる。

なんてことだろう。

こんな情熱が、まだ私にもあるなんて。


彼を思い出すたびに
幸せな気分になり、
そして地獄の底に落ちたような気分も
味わう。


自分ではとてもコントロールできないものに
名前をつけるのなら、

やはりそれは
「恋」と呼ぶんだろうか。


認めてしまうのは恐ろしい。

私を家族にしてくれた人達に対して卑劣だと思う。

だけど、

想うだけなら、

何もしないのなら‥

(もう少しだけ、この久しぶりの恋を
味わって、そして、静かに、黙って終わりたい。)

そう思う自分もいた。






コンコン、

その時、部屋の扉のノック音がした。
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