春雷

暗闇のままの自分の部屋に気づいて、とりあえず明かりをつけた。

「は、はあーい!」

扉の向こうには由乃ちゃんがいた。

「琴葉さん、準備できたよ」

「あ、うん。行こうか。寒いから、あったかくして行ってね」

彼女はうなづいた。

高村先生と仲良くやっている由乃ちゃんに、
こんな気持ちがバレたら、それこそ最悪だ。

由乃ちゃんの大事な時期に、ましてや思春期に
母親が他の男性と関係を持っているなんて疑われたら、さぞかし私を軽蔑するだろう。

もはや夫に気付かれるより、
由乃ちゃんに気づかれるほうが恐ろしい。

(今のままで、
自分の恋に気づかないふりをして、
そして、終わらすんだ‥)

私は何事もないように、
コートを羽織り、車の鍵を手に取った。



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