春雷

クリスマスが近づいて、
街のあちこちでイルミネーションがキラキラと光っている。

いつもは目もいかない歩道沿いの並木道も、
美しく装飾されて、道行く人たちが写真を撮っていた。

「クリスマスかあー。今年のクリスマスも塾行って、来年のクリスマスも塾行ってんのかー」

由乃ちゃんは窓際に頬杖をついて、イルミネーションを眺めていた。

「由乃さんは行きたい大学があるんですか?」

後部から声がする。
彼の声は
低いけれど、濁りのないすっきりとした声だ。

「まだ、ないです。あ、高村先生は、どこの大学行ってたんですか?韓国?」

「いえ。フランスです。フランスの哲学を研究していました」

「フランスかあーっ!かっこいい!」

「はい。お勧めします」

「じゃあ、日本に帰国してから、結婚したんですか?」

「そうです。フランスの専門書の翻訳業をしている時に、知り合いました。
出版関係の女性です」

私に聞いておけ、と、いわんばかりの誘導尋問を娘は始めるつもりだ。

黙って、耳を傾けるしかなかった。

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