春雷
え?!

「あっ」


紺色の傘の下

まず目に入ってきたのは
恐ろしい長さの足

スラリとした美しいフォルム。

その人の手の中には、たしかに私の車のキーを持っていた。

「柴田‥先生、でしょうか?先程事務所で鍵を忘れておられました」


新人教員の
高村先生だった。



そうだ!私さっきまで事務所にいたじゃないか!
書類を出す時に鍵を‥!


「あ!はい!それ私のです!すみません!すみません!ありがとうございます!」

雨の中、村上先生の腕から離れて
高村先生の方へ駆け寄った。
高村先生はびっくりして、私が雨に濡れないよう、近づいてくれた。


高村先生の傘に、入った。

途端に違和感を感じた。

背‥たっかあー!

背が高いので、傘の位置が高い。



「柴田先生と入れ違いで事務所に行ったんです。事務の方が困っておられたので、僕が預かってきました」

頭上から聞こえる声に、顔を上げると、
思いのほか近距離だった。
大きな瞳が私を捉えているのが恥ずかしくなり、また下を向いた。

「わざわざここまで来させてしまってすみません‥」


鍵を受け取るために手を伸ばすと、
彼の細長い、少し冷たくなった指に
手が触れた。



その時

空が眩く光り


遠くで

雷が鳴り響いた。


春の寒気を連れてくる雷だった。





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