春雷

そう。
あれは由乃ちゃんを塾に送りに行こうとした時の事。

高村先生が私の自宅前で待ち伏せをして、塾に付いてくることになり、
あろうことか、由乃ちゃんの前で‥

「あ、あり得ない‥。ホントあの人、あり得ない‥」

高村先生の告白を思い出して、
恥ずかしくなり、ハンドルをきつく握りしめていた。

(だけど、あの時の由乃ちゃん‥)

『コトハさんを連れていくなら私も連れて行って』

そう言った。

私はそれを聞いた時、どう思っていたっけ‥。

大事な時期に、自分の義理母を好きだと言う男性に、私も連れて行け、なんて、
なんて残酷な事を言わせてしまったんだろう。


彼についていくとか、夫と別れて由乃ちゃんと
離れるとか、
そんなのちっとも想像できない。

それなのに由乃ちゃんは私の想像を飛び越えて
連れて行ってほしいと言う。

それはすなわち
私と高村先生が一緒になる可能性があると、
思っているんだろうか。

私が、夫から離れて、
あの恐ろしく美しい彼と一緒に生きていく
想像が私にはできないというのに。
バラと雑草のようなものだ。
現実味が全くない。

「ああ‥それなのにあの人は‥」

彼が由乃ちゃんにどう答えたか、思い出した。
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