春雷
「嘘だ‥夢、かな‥しばたせんせいがいる‥」
彼が背を縮めて、私の顔を除きこんできたので、恥ずかしさで飛び退いた。

その鼻声に、ぴんときた。

「風邪ひいたんですね?出歩いて大丈夫なんですか?!」

真正面から見上げる高村先生は、
いつもと違う雰囲気だ。
眼鏡も見たことがない。
熱で大きな二重の瞳も、半分に開かれてるし、
いつも綺麗に整えている黒髪も、今日は艶がない。
それでもどうしてこの人は美しいんだろう。
成人の身なりをはずしたら、学生としても通用しそうだ。

「ハイ‥。ちょっと、体調が‥。でも、飲めるものがビールしかなくて‥。ゴホ、ゴホ」

「高村先生‥もしかして、あの日、私の自宅前で長いこと待ったんですか‥!?それで風邪ひいたんですか?!」

「‥あい」

「もーっ!」

私は、ドアを開けろと、彼を促し、
彼は黙って従った。
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