春雷
高村先生を寝室に促すと、

そこには寝乱れたシーツと、高村先生の香りが満たされていた。

(うわっ!先生のベ、ベッド!!!!)

先程までの怒りが消えて、途端に恥ずかしい気持ちが込み上げた。


背後にのっそりと先生が立っているのを感じ、また私は飛び退いた。

しんどそうに一点を見つめる彼に気づかれまいと、彼の背後に周り、ダウンを脱がして、グイグイとベッドに送り出した。

ふうふうと言いながら、ベッドに潜り込んだ彼をさらにぎゅうぎゅうと布団に丸め込む。

布団から、目だけ出るようにして、
眼鏡を取った。
彼はされるがままだ。

「よし。じゃあ、飲み物持ってきますね」

「お説教‥しないんですか?」

「するつもりでしたよ‥由乃ちゃん巻き込んで貴方はホントに自分勝手な人です。
本気ですか?人妻とその娘をフランスに連れてこうとするなんて、到底信じれません。」

「ふふ‥貴女は弱っている人に優しいですね。
僕、弱味につけこんじゃいますよ‥‥
僕は本気です。貴女を連れていきたい」

布団に包み込んだ手はいとも簡単に抜け出て、
飲み物を取りにいこうとする私の手を優しく握りしめた。

「‥熱い。熱が高いみたい‥」

私の手を握りしめた熱のこもった手には、消えない傷が残っている。私のせいで出来た傷だ。

白い美しい手にこれが一生残るのかと思うと、胸が痛む。

「手、だけは‥ご主人にあげない。僕のもんだ‥」


熱に浮かされ、とろりと笑う笑顔がセクシーすぎて、胸が締め付けられそうだ。

もう、認めよう。


私、この人の顔が見たかったんだ‥。

腹が立っているのに、
めちゃくちゃな人なのに‥。
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