春雷
雷のせいか、話したこともない男性の傘に入っているせいなのか、
心臓部がばくばくする。
「ひえっ!雷!怖い怖い!いや、柴田先生、よかったですねえ〜、では、先生方、お疲れ様でしたぁー」
「あ!村上先生、本当に助かりました!ありがとうございました!」
村上先生は自分の車に向かって行った。
た、助かった‥、。
あ、
まずい
駐車場でこんな話題の方と相合傘のところなど、誰かに見られてたらたまったもんじゃない。
変な噂がたつ。
「あっ、あの、国際学部の高村先生です、よね?顔合わせで覚えていました。
私は文学部の柴田です。本当に助かりました」
頭を可能な範囲で下げた。
「あの、私はもう大丈夫ですので、先生も濡れますし、どうぞご自分の方に‥」
「僕のこと、覚えていて下さったんですね、ありがとうございます」
少し口角が上がり、綺麗な歯並びの白い歯が見えた。
深い意味はないが、つい、見惚れてしまった。
「お困りだったでしょうし、間に合ってよかったです。 僕、車じゃないんですよ。バスなんで、じゃあ、失礼しま‥」
「バス⁈
バスなんですか?バス乗り場、ここと反対方向なのに、わざわざ届けにきてくれたんですか?!」
「あ、はい。でも、届けたかったんで」
高村先生の背後で、
また雷が鳴り
雨はまだまだ止みそうにない。
彼の足元
私のせいで、ぐっしょりだった。
私のせいで。
「高村先生、送らせてください」
口が、後先考えず、勝手に動いた。
「えっ!」
彼はたじろいだ。
そりゃそうか。
彼からすれば、気持ち悪いナンパに見えるかもしれない。
もしかしたら私が、先程村上先生との同乗に真底抵抗したかったのと同じような苦みを感じさせてしまったかもしれない。
だけど、これ以上高村先生を雨に濡らしたくなかった。
「本当に、いいんですか?」
背丈が彼の方がはるかに高いはずなのに、
それはなぜか上目遣いに見えた。
上目遣いというのは、男子でも有効なのか‥
「もちろんです。ご自宅、北海道とか、沖縄じゃなければ、近くまで送らせてください!」
「じゃあ‥恐れ入りますが‥甘えさせていただきます‥」
雨の中、彼は深々と頭を下げる。
謙虚な人という印象をうけた。
私は車を素早く解錠した。
こういう時、二列目シートか、助手席か、どちらにお誘いしたら良いのだろう?
車、今すぐ除菌スプレーしたい‥
私の思念とはうらはらに、
お邪魔します、
そう言って
彼は長い足を折りたたみ、優雅な仕草で助手席におさまった。
あ、助手席にお座りになるのね‥。