春雷

「ふふ‥柴田先生‥アナタ、まさか、男の部屋に一人で来て、ただで帰れると、思ってま、ゲホッ、」

「はあっ⁈そんな熱出して何言ってんですか!
私、怒りにきたんですよっっ!手を離して下さ‥っうわっっ!」

手を引き抜こうとすると、
予想以上の力で引き寄せられ、
あっという間にすっぽりと腕の中に収まってしまった。
ぽふん、と、顔に当たる布団から、彼の匂いがした。

(うわっ!うわっ!まずい‥!)

顔が熱くなるのを感じる。

あの細い腕にこんな力が出るなんて、
油断した。
腕から抜けようと力を入れても全くかなわない。締め技のようだ。

きゅうきゅうと布団越しに締め付けてくる。

(ヤバイヤバイ!!!)

「弱ってるからって、油断しましたね。僕も男ですから、好きな人がネギしょってやって来たら、制御できない時もありますよ」

恐ろしいくらいに心臓がバクバクしていた。

「貴女は‥弱い人に優しいから、こうやってつけ込まれるんだ。
僕は心配です‥貴女が他の男に‥」

「そんなわけないでしょーっ!!」

あまりの馬鹿らしさに怒りを通り越して呆れてしまう。
油断したスキを狙って彼の腕から頭を引っこ抜いた。

力尽きたのか、もう彼も技をかけてこない。

私は足音を立ててキッチンへ向かった。

心臓のドキドキを沈めたかった。
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