春雷
「フランスなんかに行って、どうするんだろ?言葉も通じないし、住むとこも一人だよ?泣いて帰ってくるに決まってるじゃないか。どう考えも無謀だよ」
夫は、
由乃ちゃんが一人で一生懸命集めてきたフランスの大学の案内をちらりと見て
机に放り投げた。
ソファーの背にどすん、ともたれて
短い髪をわしわしとかき乱す。
ばからしい、と言って。
「どう思う?ママ。知ってた?」
「‥知ってたよ」
キッチンから答えた。
「なんだ。また俺が除け者か。仲良いね」
夫は子供のように拗ねた。
けれど、子供のように可愛くはない。
「じゃあさ、ちゃんと止めといてよ。俺が言ってもあの子言う事聞かないし‥あ、そういえば」
「なに?」
「俺の同僚の娘さん、ママの大学の国際学部にいるんだけど、そこの先生が、フランスに行くらしくて、メソメソ泣いてるて、言ってたな」
どきりと、した。
持っているコーヒーを落としそうになった。
「偶然だね。‥て、あれ、前のレッドイーグルの
ライブ、同僚と行くって言ってたのも、国際学科の人だったっけね‥?」
覚えていたのかと感心しつつ、
今日、この場で私は人生を変える決断を迫られているような気がした。
決断の時が、突然やってきた。